Contents:
今月は小説を中心に読んでみましたが、読破量は思いのほか少量にとどまる。
(1)文体の科学 / 山本貴光 / 新潮社
表題通り文体を科学した本かと思いきや、いったいこれは何だったのだろう。
結局ここには文体の科学はない、、、残念。
(2)颶風の王 / 河崎秋子 / KADOKAWA (写真)
馬と共に生きる家族を 6世代に渡り綴る三浦綾子文学賞受賞の力作。
「氷点」50周年記念で 1回限りのこんな賞が昨年あったみたいです。
ごく最近の新刊なのになぜか既に手に入らず状態で、しかたなくアマゾンで中古買ったんですが、、、
なんでぇ~~、定価の倍とられました (泣)。
ふ~む、確かに「氷点」を髣髴させる骨太の物語です。
(僕は「氷点」はそんなに好きではありませんが。)
良かったです、特に前半。
中盤は描写が不足しており、後半は凡庸ではありますが、それでも定価の倍払った価値があるかもしれません。
酪農家のおばちゃん (作者は酪農家らしいです) 侮れません。
(3)朝が来る / 辻村深月 / 文藝春秋
中学生が産んだ子供を特別養子縁組でわが子とした夫婦とその子を産んだ少女の物語。
どこがというわけではないのですが、読んでいて違和感があります。
人物の感情や動作が微妙に地に足がついていないというか、少しずれている、、、。
準備された結末はいいとしてもそれに向けたアプローチが滑っている感が否めず、ちょっと好きになれません。
(4)夏の裁断 / 島本理生 / 文藝春秋
メンタルがちょっと弱い女性作家のだらだらとした生活が男と絡みながら描かれる。
作者は芥川賞を中心に数々の文学賞の候補となっておりそのうちいくつかを受賞とのこと。
いかにも文学賞好みの構成と文体で読みやすいが、"なんや、それだけかいな" ってな気がするのは僕が歳を取ったせいか?。
(5)レ・ミゼラブル / ビクトル・ユゴー (訳:豊島与志雄) / 青空文庫
超有名な 19世紀フランスの大河小説。
第 1部を読み終えて暫く挫折していたところ、間違って第 3部から読み継いで 2、4、5部の順となったのはご愛嬌。
社会情勢を叙事詩の如く滔々と語った後に登場人物の動静を語るスタイルに慣れるまではちょっと読みにくかったんですが、
慣れたら読みやすいし展開は推理小説風で面白い。
歴史の波に耐えて世界で読み継がれるだけのことはあります。
明治の世、黒岩涙香が邦題を「ああ、無情」としたことは名訳と言われますが、
無情は最後で救済されていることを知りました。
また、19世紀前半のフランスにおける犯罪者への意識は現在の刑法意識とはかなり異なっているようで、
現代刑法の処罰量刑の考え方が必ずしも歴史的に古いわけではないことも学びました。
(6)残響 / 村上陽子 / インパクト出版会
原爆文学 / 沖縄文学に関する自身の博士論文を加筆再編した若き学者による研究発表文。
結構いいですね。
深読みしすぎの感はあるものの、かなり詳しく作品を分析できていると思います。
善きにつけ悪しきにつけ作者の手を離れた作品は読み手の解釈に縛られていくわけですが、
広島、長崎、沖縄という特別な事実として既に自由ではない戦争の過去を題材とする場合、
読み手も特別に縛りをかけたがるのでしょう。
本書に述べられた解釈はたぶん善き方に原作を縛っている。
でも、執筆時の原作者は本当はもっと自由だったと思います。
僕は本書の考察対象となった原作を以前いくつか読みましたがその時はもっと自由でした、、、
って言えば聞こえはいいが単に僕の浅慮に縛られていたから自由に感じただけやもしれん??。
(7)アンティゴネ / ブレヒト (訳:谷川道子) / 光文社古典新訳文庫
古代ギリシャの詩人ソポクレスが描いた悲劇を、戦後演劇界に多大な影響を与えた劇作家ブレヒトが焼き直した演劇シナリオの新訳 (らしい)。
演劇のシナリオって、僕にはどれもよく判りません。
とは言っても僕が読んだのは、カリギュラ (カミュ)、夕鶴 (木下順二)、出家とその弟子 (倉田百三)、
人間の証明 (森村誠一他、これは映画)くらいですが (笑)。
(8)カフカシリーズ1 / 青空文庫
青空文庫収録のカフカを順に全部読んでみようってな企画。
「変身」「流刑地で」「家長の心配」「皇帝の使者」「最初の苦悩」「断食芸人」「火夫」「判決」(以上、訳:原田義人)、
「罪・苦痛・希望・及び真実の道についての考察」(訳:中島敦)、
「家の主として気になること」「処刑の話」「道理の前で」 (以上、訳:大久保ゆう)
今月は短編ばかりです。
代表作「変身」は再読。
ある朝身に覚えのない変身により巨大な毒虫になる不条理は最後に家族への光明をもたらす、、、
という読み方はどちらかと言えばマイナーなようですが。
昔に全集で読んだのか比較的近時に青空文庫で読んだのか既に定かではありませんが、他も概ね再読でした。
来月は長編の「城」と「審判」の予定。